重度障害者の未来のテクノロジー活用

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介護コラム

伊藤 史人 氏

島根大学総合理工学研究科 助教

第1回では、重度障害者の「健康」を高めるにはテクノロジーの活用が不可欠であることを、
第2回では福祉・教育分野でのテクノロジー活用の問題点などをお話しました。
第3回の最終回では、福祉制度を踏まえて、テクノロジーを活用した製品をいくつか取り上げてみます。

テクノロジー活用を進めるにあたって、教育分野でよく聞く課題が「予算がない」ということです。
ただこれ、現場の教員の勉強不足が招いている問題でもあるのです。

なぜなから、国の福祉制度では、「補装具」や「日常生活用具」という枠組みでテクノロジーを活用した支援機器を購入できるからです。

これらは、障害当事者の権利です。
当然、真っ先に利用すべきなのですが、教員がそれを知らずに、すべて学校で買い揃えなければならないと思い込んでいます。
せっかくいい製品があっても、これでは活用が進みにくいのです。

それはさておき、テクノロジーを活用した未来の支援機器はどのようになっていくのでしょうか。
重度障害者が使うコミュニケーション支援機器に関して3つ取り上げてみます。

まず、AI(人工知能)を活用した機器が増えるのは確実でしょう。
すでに便利に使われているものとしては、AIスピーカーがあります。
ご存知のように、発話による問いかけに対して、AIスピーカー側が音声で返答したり、音楽再生などを行うものです。
「なんだ、普通に操作した方が楽じゃないか」
と思う方もいるかも知れませんが、PC操作が困難な上肢障害の方などにはとても便利です。

実は、発話ができない人でも使えます。
意思伝達装置による読み上げ機能で、AIスピーカーに「話しかける」のです。
話し言葉に対しても返答があるので、これはまるでお友達が近くにいるようなものです。
アニメやSFの世界で登場したロボットのお友達がスピーカーの形になって実現したようなものです。
病室や在宅生活で孤独になりがちな人にとってはうれしいものです。

VR(仮想現実)・AR(拡張現実)やMR(混合現実)の機器はすでにエンタテインメント分野や研究分野で活用されはじめています。
これらの技術が、教育・福祉用に転用されていきます。
マイクロソフトのホロレンズはMRの代表格。
現実世界の中に立体の情報を埋め込むことができます。
たとえば、自分の目の前に1,000km離れた恋人のリアルタイムの立体像を映すことができます。
もちろん、お話することもできます。
触覚についても研究されており、握手した感覚がお互いに伝達される仕組みもできあがりつつあるのです。
どのように教育福祉分野で応用するのか、みなさんの発想次第!

最後に、メガネ型の「網膜投影型ディスプレイ」。
これは、視覚障害者にとっては夢のような支援機器になるかもしれません。
目のピント合わせる能力にあまり関係なく使えるので、目のピント調整に問題のある人でもこのディスプレイならクッキリ見えるようになるのです。
補聴器ならぬ補視器ですね。
これまでは、拡大器やサングラスなどが主な視覚支援機器だったので、大きく状況を変える可能性があります。

テクノロジーは進化していきます。スマホは10年で私たちの生活を変えました。向こう10年で、教育福祉の分野にも大きな変化がもたらされるでしょう。

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