ICT化における考察

HOMEコラム>阿比留 志郎 氏

介護コラム

阿比留 志郎 氏

社会福祉法人梅仁会 理事長

私のコラムも今回で最後になります。
まずは、このような機会を与えていただいた関係者の皆様に感謝申し上げます。本当にありがとうございました。

1回目は、どの業務(部分)をICT化するのか?
まずは職場内での精査が必要だということ。
2回目は、ICT化には、盤石な施設内通信環境の構築が必要だという話をしました。
そして最後となる今回は、法人の具体的な取り組みについて話そうと考えていましたが、先日、ICT化を進める上で問題提起をしたい事件が起こりましたので、この件について私見を述べたいと思います。

昨年、福岡県内の保育園で園児が送迎バスの中に約9時間放置され命を落とすという悲しい事件、皆さん記憶にありませんか?その後、国から全国の保育園や幼稚園に対し、安全管理を徹底するよう通知が出たそうです。
国からの通知は、概ね次のような内容です。

  1. 場面が切り替わる際、複数職員で子供の人数を確認すること
  2. 欠席の場合、保護者に確認し職員間で情報共有する事
  3. 送迎バス運行の際、運転担当者の他職員同乗が望ましい
  4. 乗車と降車時、座席や人数の確認を実施し、職員間で情報共有する事

以上、セクション(場面)ごとに、確認の徹底と情報の共有を図る事が求められました。
この通知後、全国の幼稚園や保育園は、安全管理の徹底を改めて行ったと思います。
にもかかわらず、先日、静岡県の幼稚園で同じ様な事件が起こりました。

この幼稚園では、園内でシステムを導入しており、事件当日、バスの中に取り残され「不在」のはずの園児が、システム上では、「登園」となっていたそうです。
上の通知4乗車時と降車時の確認について、県や市の調べ(新聞記事)によると、

  • 乗車時、被害者本人の体調不良は見受けられなかったと説明(職員が直接状況把握を行っている)
  • 降車時、乗車していた園児6人の降車を専用タブレット等への入力で済ませている。(職員が直接一人一人の確認は取っていない)

以上から皆さんはどのように思いますか?
人命に直接影響を及ぼす業務(工程)は、「人(職員)が行うべきだ。」とか「ICT(機械やシステム)に任せるのは危険だ」などといった声が聞こえてきそうです。
この事件の詳細、私もよく存じませんが、新聞記事から得た情報で推測すると、昔「コピペ」という言葉が流行りましたが、それと同様、降車時のタブレット入力を人(職員)が確認を取らず一斉入力したことによる、人為的ミスが要因ではないかと考えました。
担任の先生も欠席の連絡がない児童の所在確認を怠っていたそうです。
システムを過信していたかどうか定かではありませんが、システム上「出席」となっている園児が、実際は「不在」なのに、誰もそれに気づかず業務を遂行していたということになります。
なんで、「出席」となっている園児がいないという事実に担任は気づかなかったのか?
記事を読む限り「???」としか言えませんが、これは、普段業務を遂行する場面で、園児の出欠を確認するという業務(工程)をシステムに依存していた結果かも知れません。

以前述べましたがシステム化は、業務内容を細分化し、「どの業務(工程)をICT化(システム化)したいのか」まずは整理し、職場内でよく理解した上で、システム化を図ることが大事になります。
高齢者施設の場合、夜間見守りセンサーと業務の効率化(=生産性の向上)がよく話題となりますが、センサーにどのような役割をもたせ、何を施設として管理するのか?
前述した、悲しい事件と同じような事がおきないよう、使用する者は内容を正しく理解した上で活用する事が求められます。
そうでない場合、事故へと繋がる可能性があり大変危険です。

最後になりますが、今後、施設のICT化は標準化され、更に拡がります。
ICT化を図るには、その業務(工程)のICT化に問題(落とし穴)がないか精査が必要となります。特に人命に直接関係する業務(工程)では、必須です。
安全性が確認されるまで何度も根気強く確認を行ってください。その確認作業が施設内の業務の浸透に繋がります。

変革には大変な労力が伴います。これからの時代を見据え、共に頑張りましょう。

連載一覧

機器

経営者

阿比留 志郎