【第3章】 Q.O.Dと専門職の役割(よりよい死)

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稲葉 敬子 氏

現在の日本の医療制度の中では、治療をしない患者は一般病院にはいられない。
したがって「無駄な延命治療は受けたくない」人は、病院で死を迎えることは難しくなる。
後は、施設か在宅かということになるが、介護施設はおいそれとは入れず、在宅では家族に看取るだけの介護力がない場合が多い。

そこで必要とされるのが、地域ケアシステムの確立であり、在宅での専門職の存在である。

「死に行く人の介護」を学ぶ受講生の中に「私は死に行く人のお世話など、怖くてできません」という人がいる。
そんな時「死に行く人ではなく、その方がよりよく生き切れるように、苦痛をとり少しでも楽になるためのお手伝いはできるでしょ」というと、納得する。

死を特別なものと忌み嫌うのではなく、自然の摂理なのだと素直に受け止めることが、医療・介護の専門職に求められる一番大切なことではないだろうか。
その上で、家族を励ましながら、その人らしく「生」をまっとうするお手伝いをすることだと思う。

そうはいっても、在宅で専門職が24時間見守っているわけにはいかず、その間の家族の心理的負担は計り知れないものがある。

そこで、在宅とはいえ自宅ではなく、例えば、地域ケアシステムの一環として、中学校区に一箇所くらい「看取りの家」を設置し、医師と連携しながら、医療・介護の専門職が常駐する。
もちろん、側には、家族やご近所の親しい人などが交代でいつでも出入りできる、
そんな場所があれば、家族はいざというとき安心して病院から引き取り、本人の望むようなQ.O.D(よりよい死)を迎えさせてあげることができるのではないだろうか。

医療・介護両方の資格を持つものとして、地域の中にそのような施設を設置できるよう微力ながらお手伝いできればと念じている。

【第2章】 Q.O.Dと専門職の役割(よりよい死)

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稲葉 敬子 氏

「人生最後の医療に関する調査」の中で、一般の人の回答では、「あなたが意思表示できない状態になり、さらに治る見込みがなく、全身の状態が悪化した場合」に、「意識が低下しても強い鎮静剤を使ってほしい」68%
「心肺蘇生はしてほしくない」76.8%
「人工呼吸装置はしてほしくない」91.1%
「胃ろうはしてほしくない」91.1%
「鼻チューブはしてほしくない」が90.4%だった。

ところが、これを医師の回答に限ると「強い鎮静剤を使ってほしい」は90.2%
「心肺蘇生はしてほしくない」は87.6%
と俄然多くなる。

「人工呼吸装置」はほぼ同数、「胃ろうと鼻チューブ」に関しては、「してほしくない」が一般のひとよりむしろ少なかった。

ところで、そのような意思を家族に伝えてあると答えた人は、全体で3割弱、さらにそれを書面にしている人は、全体で5%にしか過ぎなかった。

多くの人が、「無駄な延命治療をせず、苦痛のない自分らしい死」を望んでいながら、それを家族にきちんと伝えていないための悲劇があちこちで起こっている。
医師が「終末期の担当患者の治療方針を決定する場合」の主な要素のうち47%は家族の意向だと回答しているように、家族がその判断を迫られることになり、残された家族にとって非常に重荷になっている。

Q.O.Dつまり「よりよい死」を実現するためには、なんといっても本人の意思が大切であり、またそれをきちんと書面に著しておくことである。

それさえあれば、家族はもちろんのこと、医療、介護の専門家もどうすれば本人の希望を叶えてあげられるかの一点に絞って、心を一つにし、迷うことなく対応できるのではないだろうか。

とはいえ、本人が置かれている環境によっては、必ずしも望みどおりに対応することが難しい場合もあるだろう。
次回はそのことについて考えて見たい。

【第1章】 Q.O.Dと専門職の役割(よりよい死)

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稲葉 敬子 氏

古来より、「終わりよければすべてよし」という諺がある。一方、「死と太陽はまともに見られない」という諺の通り、ついこの間まで、死について語ることはタブーとされてきたのも事実である。

しかし、時代は変わった。
世界一の長寿国で高齢者人口はうなぎのぼりに増えつづけ、国民皆保険で、誰もが高度医療の恩恵を受け、そしてその医療によって、なかなか死なせてもらえない時代になった今、多くの人が「死の質」について語るようになった。

私は今、介護スタッフの研修で「死にゆく人への介護」を教えているが、私たちが学んだ一昔前の時代には考えられないタイトルである。

最先端の医療現場で長年、「医療にとって死は敗北である」と信じてやってきた医師が、病院退職後に介護施設の嘱託医になり、「自然死」の存在を否定し続けてきた今までの自分に愕然とされたという。

今の時代、多くの高齢者は、自分の死について、何を望んでいるのだろうか。

私ども「高齢社会をよくする女性の会」では、「人生最後の医療を考える」をテーマに、一年余に渡って、医療、介護の現場はもとより、弁護士など各方面の専門家を招いて勉強会を重ね、その集大成として「人生最後の医療に関する調査」を行なった。
調査では、「あなたが意思表示できない状態になり、さらに治る見込みがなく、全身の状態が悪化した場合」に「鎮静剤を使ってほしいか」、「心臓マッサージなどの心肺甦生と延命のための人工呼吸器装着をしてほしいか」、また「さらに治る見込みがなく、食べられなくなった場合、延命のための栄養補給を望むか」といった質問をした。

次回では、その調査結果を元に、Q.O.Dの実現のために、本人、家族はもちろんのこと、医療、介護の専門職としてどのように関わるべきか考えて見たい。