たかが研修されど研修(福祉はこころ?)

自身の専門領域の関係から、虐待防止等に関する研修の依頼を頂くことがあります。
お仕事の疲労が抜けない中、熱心に取り組まれる方々には頭がさがる思いです。

虐待を防止するためには、支援する側の環境整備をふくめ全般的な取り組みが必要となりますが、中でも、支援する相手方の心身特性等に関する知識や支援技術の向上に関する研修はとても重要かと思います。
ところで、これらの研修の際に、「福祉の支援で最も大事なものは何ですか?」とお聞きすると、比較的多くの方が「こころ」「相手への思いやり」と発言されます。
「こころ」の大事さを語る姿はとても頼もしく思うのですが、次の発言については、自身は同意することはできません。

 

「心さえあればいつかは通じる」

これは、比較的年配の方や、古くから福祉に携わられている管理職・施設長クラスで時に聞かれるものですが、自身は、この発言は、他の業種に対する最大の侮辱であり、また、福祉に関わる者の傲慢であると考えています。

例えばですが、わが国の製造業は、小さな町工場で作られる精密な部品が支えていると言われます。
そこでは、場合によっては相当にご高齢の方が日々のお仕事に携われておられますが、これらの方々は、ご自身のお仕事に「心を込めて」向き合っておられるはずです。
では、心さえあれば、外国の部品に負けないものを作ることができるのかというと、そんなことはありえません。
極めて高い技術を「心を込めて」注ぎ込むからこそ、精密な部品を作ることができるわけです。
つまり、「福祉“は”こころ」でもなんでもなく、「福祉“も”こころ」であり、こころは福祉の専売特許でも何でもありません。
であるからこそ、「心を込めて」相手に接するという当然の姿勢のうえで、質の高い支援のるための知識・技術の習得が大事になります。
この意味で、研修は、たかが研修ではなく、されど研修として意味を持つと考えられます。

谷口 泰司 氏

■経歴■
関西福祉大学社会福祉学部 教授

■大学等■
1985年 京都大学経済学部経営学科卒業
2003年 立命館大学院修士課程修了(社会学研究科応用社会学)

■職歴■
1985年 姫路市入庁(資産税課)
1996年 同市 保健福祉推進室(介護保険制度移行担当)
1999年 同市 介護保険課(管理担当)

2002年 同市 障害福祉課(支援費制度移行~管理担当)
2004年 同市 保健福祉政策課(福祉計画立案・施設整備担当)
現在  関西福祉大学社会福祉学部 教授

■学会■
日本社会福祉学会、日本介護福祉学会

■著作等■
【分担執筆】
「現代社会福祉の諸問題」
「介護保険の経済と財政」
「現代の社会福祉」
「福祉行財政と福祉計画」
「養護老人ホーム施設内研修にかかる手引き」ほか
【論文】
介護保険制度導入と地方自治体の変化(2003)
地方自治体における支援費制度の現状と課題報告(2004)
特別養護老人ホームの変貌に関する一考察(2006)
障害福祉サービス提供基盤の地域格差に関する一考察(2010)
障害者の地域生活移行支援にかかる諸課題-養護老人ホーム・救護施設・障害福祉計画の現状より(2012)
高齢知的障害者の居所と生活実態(2014)
重度障害者の住まいに関する研究(2017厚労省科研分担研究)
知的障害者の高齢化における制度的課題(2020)ほか

■社会活動■
兵庫県障害福祉審議会(会長)
大阪府自立支援協議会(会長)ほか

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介護職

大学教授

谷口 泰司