【第3章】私の考える介護の質~介護の語義の変化と生活の質・人生の質~

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森山 千賀子 氏

「介護」という用語の語義は、時代の流れとともに変化していると考えられます。
歴史を遡れば、「介護」という用語が日本の法令の中に登場したのは明治の中期であり、当時は身体障害の程度に対応して公的な給付対象者を特定(規定)する用語として使われていました。
1963年に老人福祉法が制定され、特別養護老人ホームが誕生すると、高齢者の「身のまわりの世話」(人的サービス)を意味する用語になり、高齢者や障害者の「身のまわりの世話」を「介護」と呼ぶようになって行きました。

社会福祉士及び介護福祉士法による「介護」の定義では、1987年の成立時においては、「身体上又は精神上の障害があることにより日常生活を営むのに支障がある者につき、入浴・排せつ・食事その他の介護」であったのに対し、2007年12月の改正では、「・・ある者につき心身の状況に応じた介護」に変わりました。
改正の背景には、介護保険法や障害者自立支援法の制定などにより、これまでの入浴・排せつ・食事、移動などの身体介護だけにとどまらない認知症者や精神障害者などに対しての介護など、新たな支援への対応が求められてきたなどがあります。
また、生活の質(QOL)、ノーマライゼーション、自立(律)支援などの人間尊重や尊厳性の概念が、人々の望ましい姿として提起されてきたことも影響が大きかったと考えられます。

さらに、2015年度から適用する介護福祉士国家試験出題基準-基本的性格では、「介護とは、単に技術的な営みではなく、人間的・社会的な営みであり、総合的・多面的に理解されるべきものである。」とされており、家族介護者支援の立場からは、「介護者と被介護者の関係性への支援も介護の質に関わる」という声も聞かれます。

介護という用語の語義は、人間的・社会的な営みに向けた心身両面への総合的生活支援へと変化しており、介護の質は生活の質・人生の質と同義に近づいていると考えます。

【第2章】私の考える介護の質~高齢者施設における夕食時間と適時~

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森山 千賀子 氏

高齢者施設における居住者の夕食時間は、何時頃が適時なのでしょうか。
歴史を遡ると、病院や施設における「早すぎる夕食時間」に関する論議は1970年代の中頃から始まり、国の政策が高齢者施設を「収容施設」から「生活施設」へと転換する中で、「夕方4時からの食事」が問題視されるようになりました。

その時期に行われた夕食時間に関する調査(全国老人福祉施設協議会による全国老人ホーム基礎調査)によれば、1977(昭和52)年の調査では、午後4時以前~4時29分が34,3%、午後4時半~4時59分が53.8%であり、約9割の施設が夕食を4時台に行っておりました。
また、1982(昭和57)年の調査では、午後4時以前~4時29分が2.9%、午後4時半~14時59分が49.0%、午後5時~5時29分が41.0%となり、約4割の施設が5時台の夕食時間になりました。

さらに、2000(平成12)年度からは、介護保険制度の導入により介護保険施設の夕食時間は、「適時の食事の提供において、食事時間は適切なものとし、夕食時間は午後6時以降が望ましいが、早くても午後5時以降にすること」と省令で規定され、適時であることが費用算定基準等で定められるようになりました。

ところで、住居形態の変化や個室化が進んでいる今日において、「居住者の個別性に応じた適時の夕食時間」を質の確保の点から捉えるとどのようになるでしょうか。
適時とは、単に食事を提供する時間ではなく、個人のニーズや生活時間に応じた食事時間であり、例えば、ユニットケアの考えのもとで、他の居住者と一緒に盛りつけなどに参加することも、夕食に関わる時間として重要な要素になると考えます。
また、午後5時前から晩酌をしながら1時間以上の時間をかけて夕食を楽しみたい方もいると思います。

つまり、個別ニーズに応じた夕食時間・食事時間の視点から適時は検討されるものであり、そのための介護サービスの質の評価も重要になると考えます。

【第1章】私の考える介護の質~胃瘻(いろう)をとりまく生活の質~

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森山 千賀子 氏

介護保険法の改正(2011年6月15日成立)にともなう社会福祉士及び介護保険法の改正により、2012年4月からは、一定の研修を受け、一定の要件に適合し都道府県知事に登録した事業所等で働く介護福祉士や介護職等に対しては、喀痰吸引(口腔内、鼻腔内、気管カニューレ内部)と経管栄養(胃瘻、腸瘻)の行為が、法律に違反しない(実質的違法性阻却)という運用が認められました。

一方、2012年1月28日には日本老年医学会において、「高齢者の終末期の医療およびケア」に関する「立場表明」2012が出されました。
これによると、「最善の医療およびケア」とは、「単に診断・治療のための医学的な知識・技術のみではなく、他の自然科学や人文科学を含めた、すべての知的・文化的成果を還元した、適切な医療およびケア」であり、「生活の質(QOL)の高い状態とは、主観的な幸福感や満足感が高く、身体的に快適な状態」であるとされています。

これらのことを考えると、例えば栄養をとる方法として胃瘻を造る際の意思決定や合意決定はどのように行われているのかが気になります。

医師に「口から食べられない、在宅で介護するなら胃瘻ですね。」と言われても、胃瘻にしない選択もありますし、胃瘻を造ったとしても、朝は胃瘻で栄養をとり、昼と夜は嚥下の訓練をしながら口から食事を摂ろうとしている方もいます。また、先輩ヘルパーとALS(筋萎縮性側索硬化症)の方のお宅を訪問した際に、その先輩ヘルパーは「今日はお嬢さんがつくったかぶのスープです。かぶが好物とうかがいました」といって、形のあるスープを利用者の方に見て頂いてからミキサーにかけていました。

つまり、胃瘻を造ることがその方の生命維持にとってどうかでなく、その人の生活や人生のありようから、その選択を尊重しどう寄り添えるかが生活の質を左右すると考えます。

介護職の立ち位置の重要性が問われているように思います。