人的見守りとICT活用見守りの重層化、及び高齢者の能動的発信力の強化

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小川 晃子 氏

連載1回めでは人的見守りの、2回めではICT(情報通信技術)を活用した見守りの、不確実性に言及してきました。
それでは、地域見守りの質を高めるにはどうすればよいのでしょうか。人的見守りとICT活用見守りの重層化、及び高齢者の能動的発信力の強化が問題解決手法になります。

IOT※1 や AI※2 の進展により、高齢者の異変把握のサービスは増加の一途です。
しかし、こうしたサービスで別居子が遠隔地で「親の様子が何かおかしい」と気付いても、いきなり救急車を呼ぶことはできません。
まずは親の隣近所など人的ネットワークへの連絡が必要となる場合が多いのです。

高齢化や人口減が進展している現代において、民生委員やボランティアなどの人的見守り力だけで孤立死ゼロを目指すことも、もはや不可能です。
ICTを活用した見守りがほとんど民間サービスであることから、社会福祉協議会や地域の人々によるネットワークでこれを導入する場合には、ICTをどう活かして異変把握するのか、その情報に人的にどう対応するのか、それを議論し合意を形成していかなければなりません。
ICT活用も高齢者の多様な状況に応じて使い分けていく必要がありますし、費用対効果の検証も必要です。
そのためには、ICT技術の専門家だけに頼るのではなく、地域福祉の専門家を交えて地域の多様な関与者が話し合いをし、社会実験で検証するなどのアクションリサーチが有効になります。

もう一つ大切なことは、高齢者の能動的な発信力の強化(エンパワメント)です。
私が長年取り組んできた「お元気発信」は、高齢者が自分で電話機から「今日も元気です!」と毎日発信する仕組みです。
発信がない日には、社協が電話かけをし、それでも通じない場合は民生委員等が訪問で安否を確認します。
これにより確実に孤立死を防ぐことができるとともに、高齢者の能動性や有用感が高まります。

最近、私は、スマホから転倒予防体操の動画にアクセスし、5名程度の仲間で体操実施回数を共有するアプリをつくり、社会実験を行いました。
仲間の存在が体操への取り組み意欲を高めるとともに、体操をしない仲間が気がかりになり自ずと安否確認をするようになることを明らかにしました。
こうした能動的なICT活用が、相互見守りの人的ネットワーク形成にも役立つのです。

人的見守りとICT活用見守りを重層化し、高齢者の能動性を強化する社会技術が見守りの質を高める、これが連載の結論です。

※1 IOT(Internet of Things)とは、モノがインターネットのように繋がり相互に制御する状態を指します。
見守りで例えれば、室内の温度・湿度設定装置と血圧・心拍を測定するリストバが相互につながり、体調にあわせた室内環境設定をするとともに、別居親族等の見守り者にそれを伝えることができます。

※2 AI(artificial intelligence)人口知能とは、人工的に人間の知能を模倣するための概念及び技術のことです。
大量のデータから規則性や関連性を見つけ出し、判断や予測を行うことが研究されています。
見守りで例えれば、高齢者の大量の歩容と転倒に関するデータを解析し、本人や介護者に転倒を防ぐための情報を出すことができるようになるかもしれません。

ICTを活用したからといって確実な異変把握はできません

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小川 晃子 氏

ICTを活用したからといって確実な異変把握はできません

独居高齢者の見守りのために、ICT(情報通信技術)を活用した様々なサービスが開発されていますが、それを活用する際には、異変把握が確実にできるのかという質の検証が必要です。
今回は、現場で起きている事例をもって、そのことを指摘しておきます。

電話回線を使った緊急通報システムは、利用者には「お守り」のようにありがたがられます。
しかしその反面、長年使っている利用者は「いざという時に押せないかもしれない」と不安を持っています。
緊急時に通報できない主要な要因はペンダント型の子機を携帯する人が少ないからです。
トイレや風呂場で倒れた場合、子機がなければ通報できません。
なぜ携帯しないかを問うと、その背景には「誤報をしたら申し訳ない」という遠慮感があることがわかります。
ペンダント型は歩くと胸にあたり誤発信をするからです。
これを数回経験すると、携帯を避けるようになります。

異変が通じない要因は、利用者側だけにあるわけではありません。
緊急通報を夜間集中方式で行っている場合、東京のセンターで対応するオペレーターに高齢者が「あたった」と言っても伝わりません。
脳卒中多発地帯の東北では、「脳ににわかにあたる」という意味で異変を伝えるキーワードなのですが、残念ながら他地域の方には伝わりません。

各種の生活センサーの確実性にも同様の問題があります。
トイレのドアセンサーを安否確認に設置しているA市では、異変通知が山積みになっていました。
トイレドアをきちんとしめる習慣のない高齢者は結構多いのです。
何度言っても改まらなければ狼少年状態になり、安否確認の用をなさなくなります。

また、山間僻地B町の住居では、玄関や勝手口の土間にテーブルとイスの空間があります。
安否確認のために人熱を察知する赤外線センサーを設置に来た県外業者さんは、食事や団らんの場としてにぎわう場がよいと判断しここにセンサーを設置していました。
しかし、そこは寒くなれば薪ストーブをたくところ、熱量をみるには不適当です。

高齢者の異変把握の確実性を高めるためには、個々人の生活スタイルとの適合性を検証するとともに、発信された異変情報を受け止める運営体制をつくらなければならないのです。

人的見守りだけでは安否確認の確実性は高くない

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小川 晃子 氏

人的見守りだけでは安否確認の確実性は高くない

高齢化や人口減を背景として、地域における「見守り」の必要性が増しています。
しかし、見守りの質が語られることはあまりありません。
私はこの3回のエッセイで、そのことを書いていきたいと思います。

そもそも見守りとは何でしょうか。
日本語の意味としては、「無事であればいいがという願いをこめて、高齢者やこどもをみること」を指しています。
継続的な関わりのなかから、何らかの変化を異変として察知し、予防的な措置につなげる行為です。
見守りの行為者は、家族や近隣、福祉・医療の専門職など様々ですが、地域福祉では民生委員の役割の1つが見守りになっています。
その民生委員を対象として調査を行うと、半数以上の方が「見守りの方法が定まっていないので、どこまで行えばよいのか不安や悩みが多い」と回答されます。
まじめな民生委員ほど、異変が起きそうな方のところに足しげく通います。
ところが、見守られる側からすれば、それが「見張り」と感じられる場合も多々あります。

見張りになるのを避けるために、直接声かけをせずに「こっそり見守る」方法をとる見守り者が大勢います。
しかし、夕方になって「今夜も照明がついているから無事」と安心していても、家の中で倒れているかもしれません。
昼間は照明がつきっぱなしであることがわかりませんから、数日後に孤立死として発見される可能性もあります。

民生委員や近隣の人などによる見守りには、例えこっそり見守りであったとしても、長期的な関わりがあるからこそキャッチされる見守り対象者の変化や、それに伴う生活支援の必要性などを判断できる重要な情報が把握されており、これが見守りの質として重要です。
しかし、命の有無、すなわち「安否を確実に確認」することは、「こっそり見守り」などではできないと考えたほうがよいのです。

安否を確実に把握するためには、見守られる側から異変を発信してもらう方法や、情報通信技術を活用して自動的に異変を把握する方法を加えていく必要があります。
それは次回へ。