支援の質~人の縁とは不思議なもので~

最近、事業所を立ち上げ、家電を買いに量販店に行った。担当者と名刺交換し、一通りの家電を揃えた。

上川さん(70代男性、仮名)は通所介護のんきの初期の利用者である。アパートで一人暮らし。担当者会議(認知症初期対応チーム)で初めての対面。広くはない部屋に8人ほどの人が車座に座る。そこに生活保護受給者には違和感のある大きなテレビ。100インチはある。しばらくは通所介護の利用で様子を見ることになった。気難しい所があり、私も通所拒否を一度体験した。大ぼらも吹く(「東京でトンカツ屋を経営した」と豪語、見せてくれた写真は大量の千切りキャベツと上川さん)が、やさしい言葉もかけてくれる。スタッフそれぞれに珠玉の言葉をいただいた。ある日、私が事務室で名刺を整理してファイルに収納していると、隣のスタッフが「○○家電の上川って」と気づく。10年以上前に法人を立ち上げ、グループホームの家電を買おうとした時に、私は上川さんから名刺をもらっていた。購入は違う店だったと思う。でも出会い、名刺を保管していたことが「縁」だったのかもしれない。

やがて一人暮らしが難しく、上川さんはサービス付き高齢者住宅へ転居する。ワンルームの部屋にやはり巨大なテレビ。送迎時にうちのスタッフの注意不足で転倒、骨折、入院。回復し退院に向けてのケース会議で病院に行き、久々に再会。懸命にリハビリをしていた。別れ際に握手をした。とても力強い手だった。その感触は今も残っている。退院後、利用再開するも、サ高住での生活が厳しくなり、特養へ。利用は終了となる。
上川さんは特養で「行きたいところがあるんだ」とよく話していたそうだ。それが「のんき」だったかはわからない。入所後、半年が経過したある日、役所のケースワーカーから電話があった。「上川さんの写真ありますか?」と。

上川さんを思い出し、私は今回の買い物の担当者の名刺を名刺整理ファイルに保存した。

大井 純

特定非営利活動法人障害児教育・福祉資料センター代表理事
■現職■
特定非営利活動法人障害児教育・福祉資料センター代表理事
城西国際大学福祉総合学部非常勤講師
日本社会事業大学通信教育科非常勤講師
武蔵野大学通信教育部社会福祉専攻非常勤講師

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