支援の質~ホームに入りたい~

昨年、障害者グループホームの引っ越しをした。賃貸物件が諸事情で借ることができなくなり、やむなく中古戸建を購入した。

大池さん(70代男性、仮名)はアパートで一人暮らし。キーパーソンは元妻。他の事業所から断られ、「のんき」の利用になった。「のんき」利用の初日の光景を今でも憶えている。社会福祉士実習生の受け入れの初日。何とか通所はしてくれたものの、午前中は机に突っ伏したまま、一言も発せず、お茶もお菓子も食べず、手を変え品を変え声かけするも無反応。発する言葉は「帰る」と。スタッフはざわつく。そろそろ昼食の時間。送るかどうか判断をしなくてはならない。昼食提供。周りの利用者も何となくよくない雰囲気。昼食には手をつけず、「仕方ない、送ろう」と判断しようとしたその時、話し声が…。どうやら北海道苫小牧出身とのことで、偶然北海道の話題になり、大池さんが喋り始めた。ニコニコして話し始めた。昼食は食べてくれなかったが、お茶とお菓子は食べてくれた。「よし、夕方まで様子見よう」と。携帯ゲームで将棋をやっているのは知っていたので、スタッフが接待将棋。午前中との豹変ぶりを実習生が驚愕して初日のノートに記載していた。これから大池さんは「のんき」に楽しく通所するようになった。一人暮らしが寂しい。私に「グループホームに入れてくれ」と。障害者用のホームなので、無理だとお話ししました。自宅での生活を続けていた大池さんだが、自宅で転倒していたところをヘルパーが発見。胸骨折、入院し、そのまま。

中古戸建を購入し、引き渡し予定の一週間前、大池さんの後見人から連絡があった。大池さんが亡くなったと。アパートを引き払うので、必要なものがあれば、持って行ってください、と。新ホームは大池さんの家財道具でスタートすることになった。

新ホームで、新スタッフに業務を教えていた時、利用者が見ていたテレビ(NHK)がそのままついていた。
ブラタモリ。場所は、北海道苫小牧。大池さんがそこに居たのだろう。ありがとう。

大井 純

特定非営利活動法人障害児教育・福祉資料センター代表理事
■現職■
特定非営利活動法人障害児教育・福祉資料センター代表理事
城西国際大学福祉総合学部非常勤講師
日本社会事業大学通信教育科非常勤講師
武蔵野大学通信教育部社会福祉専攻非常勤講師

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