専門知識・技術習得時の留意点(障害が先かヒトが先か)

先のコラムでは、知識・技術の重要性について触れましたが、これらを習得していく際に気を付けるべき視点があります。それは知識や技術を重視しすぎることで起きがちな「専門バカ」とならないための視点です。以下に、学生との関わりから興味深い変化を紹介します。

一枚の写真があります。その写真は、四肢麻痺があり、気管切開もしていて、知的にも障害があると思われる5歳くらいのこどもが車いすに座り、横に母親が付き添っているものです。この写真を見せて、①「最初に」どこに意識が行くか、②「最初に」どんな言葉かけをするか、を問うと、低学年では、ABの答え拮抗していますが、4年生ではAが8割、Bは2割と大きく変化します。

 

専門性が高まるにつれ増えるAの答えは、①「四肢麻痺があり、介助が必要」「気管切開のため発語は困難」、②「最初にお母さんに状況を聞いてから声をかけます」などです。これがいわゆる「専門バカ」の典型的な答えであると思います。

一方で、専門性の高まりにより減っていくBの答えは、①「5歳にしては大柄かな?」「顔色もよくつやつやしているなぁ」、②はこどもさんに直接「普段どんなテレビ見てる」「どんな遊びしてる」などです。

このように、理念に基づかない知識・技術の習得は、ヒトをヒトとして見ることなく、各パーツの寄せ集めとしか認識できなくなる恐れがあります。自身は、「最初に」パーツを意識したり、「最初に」子どもに語り掛けることのない答えに対し、「障害の有無や状態とか、そんなもんは「最初」はどっちでもええんじゃ!5歳は5歳じゃ!」ということを伝えています。パーツに対する支援の高さをいくら誇ろうが、そのような支援は、全く無意味であると断言してよいでしょう。

まず「ヒト」として接する、これが「ピープル・ファースト」の理念であり、介護技術の高さや効率性に目を奪われがちな専門職の方に立ち止まってもらいたい視点です。

谷口 泰司 氏

■経歴■
関西福祉大学社会福祉学部 教授

■大学等■
1985年 京都大学経済学部経営学科卒業
2003年 立命館大学院修士課程修了(社会学研究科応用社会学)

■職歴■
1985年 姫路市入庁(資産税課)
1996年 同市 保健福祉推進室(介護保険制度移行担当)
1999年 同市 介護保険課(管理担当)

2002年 同市 障害福祉課(支援費制度移行~管理担当)
2004年 同市 保健福祉政策課(福祉計画立案・施設整備担当)
現在  関西福祉大学社会福祉学部 教授

■学会■
日本社会福祉学会、日本介護福祉学会

■著作等■
【分担執筆】
「現代社会福祉の諸問題」
「介護保険の経済と財政」
「現代の社会福祉」
「福祉行財政と福祉計画」
「養護老人ホーム施設内研修にかかる手引き」ほか
【論文】
介護保険制度導入と地方自治体の変化(2003)
地方自治体における支援費制度の現状と課題報告(2004)
特別養護老人ホームの変貌に関する一考察(2006)
障害福祉サービス提供基盤の地域格差に関する一考察(2010)
障害者の地域生活移行支援にかかる諸課題-養護老人ホーム・救護施設・障害福祉計画の現状より(2012)
高齢知的障害者の居所と生活実態(2014)
重度障害者の住まいに関する研究(2017厚労省科研分担研究)
知的障害者の高齢化における制度的課題(2020)ほか

■社会活動■
兵庫県障害福祉審議会(会長)
大阪府自立支援協議会(会長)ほか

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介護職

大学教授

谷口 泰司