気高さ

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介護コラム

篠崎 良勝 氏

聖隷クリストファー大学 准教授

私は、介護職員の方々を〝介護実践者〟と表現することがある。

あくまでも私の中での感覚なのだが、介護職の仕事場を見学していると、介護職員の方々を気高い存在と感じる瞬間がある。
そのような時に私の頭の中に浮かんできた言葉が〝介護実践者〟という言葉だった。
東日本大震災直後に介護支援ボランティアに行った避難所でも介護実践者の気高さをみた。
その避難所には在宅介護サービスを利用していた約20名の高齢者が避難していた。
そこで介護支援に来ていた介護職員に女性の避難者が話かけてきた。

「あの人、さっきから臭いんだよ。ウンチ漏らしているよ」
その人が指差す先には、オムツをしている男性(山本さん=仮名=78歳)が布団に横になっている。
その話を聞いた介護職は、「じゃぁ、ちょっとみてきますね」と伝え、さっと替えの下着(紙おむつ)をエプロンの中にしまい込んで、臭いのする男性の元へ向かった。
その男性までの距離は5メートル程度だが、一直線には向かわない。
他の避難者にも話しかけながら、極めて自然とその男性の場所に向かうのだ。
そして、男性と同じように横になって、目線の高さを合わせ、ゆっくりと話しかけた。
「山本さん、お茶っこ飲みましょう」
山本さんは介護職に介助されて布団から起き上がった。
「あ! 山本さん、お茶っこ飲む前にトイレさいきましょう」、「おぉ、トイレか、行ぐか」そして、トイレでおむつ交換や汚れを洗ってきたのだ。
その後、山本さんはお茶っこを飲みながら、介護職や「臭い」と話していた女性とトランプをしているのである。
誰も山本さんがウンコを漏らしていたということに気づいていない。
まさに〝介護実践者〟の排泄介助だった。
私が「さすがですね。感動しましたよ」と言うと、その介護職は、驚いた表情で「普通ですよ」とさり気なくも堂々と言い切った。
〝介護実践者〟の気高さの一つの実例である。

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