著名人コラム

「ケアの価値」とケアに満ち溢れた人生

「ケアの価値」とケアに満ち溢れた人生

連載の最後は、私が研究テーマとして取り組んでおります「ケアリング・マスキュリニティ」と「ダブルケア」について述べます。

私は、2018年よりこの「ケアリング・マスキュリニティ(Caring Masculinities)」に着目し、研究や社会貢献活動に取り組んでおります。ケアリング・マスキュリニティとは、従来の男性性(男らしさ)である稼ぎ手役割に代わり、ケア役割に基づき他者と関係性をつくり、他者を思いやることなどを含めた新しい男性の在り方を示したモデルで、社会学者のエリオット(Elliott K,2016)が提唱しました。

ダブルケアに着目したのも同じ頃なのですが、その理由は、ダブルケアを担う方は圧倒的に女性が多く、当事者の声も女性ばかりで、男性の姿がみえないと感じたからです。私は、男性が「ケア」に積極的に関わることが、ダブルケアを含めた様々な課題解決に繋がるのでは、と考えました。

もう少し詳しくElliott(2016)の理論から学術的に説明しますと、ケアリング・マスキュリニティとは、「支配とそれに関連づけられた特性を拒否」し、「肯定的感情」、「相互依存」、「関係性」といった「ケアの価値を受容」する男性アイデンティティのことです。これまで女性の役割とみなされがちだった「ケア(気遣いやケアすること)」を受け入れることを「ケアの価値の受容」と呼びます。これは、ケアに伴う喜びなどの「肯定的感情」を表出し、人は誰もがケアし、ケアされる存在である「相互依存」を受け入れ、相手を気遣い「関係性」を築くことです。

この「ケアの価値の受容」と、覇権的男性性に特徴的な「支配」を拒絶する男性アイデンティティをケアリング・マスキュリニティといいます。覇権的男性性は家父長制の根幹(connel,1985)であり、これを拒否して「ケアの価値」を受け入れることが、ケアリング・マスキュリニティであり、これらは全てジェンダー平等が基盤となっています。

私は、男性がケアに携わりやすくする社会になることが重要であり、そのためには「ケアの価値」を高める必要があると思っています。「ケア」は、概念の拡張により、他者へのケアのみならず、セルフケアへの配慮も含まれるようになりました。そのため、男性がケアリング・マスキュリニティを取り入れることで、他者と繋がり、支え合い、他者をケアする喜びを得るだけではなく、自分自身をケアし、心身ともに健康になると考えます。性別を問わず、すべての人に「ケア」に満ち溢れた人生を送ってほしいと願い、私は研究や支援活動に取り組んでおります。

育児や介護といった「ケア」は、生きるのに必要な営みを支え、命を護る行為でありながら、家庭内ケア労働は無償労働として扱われてきました。このことが、ケアに関わる職業の賃金の低さにも繋がっていると考えます。ケアに関わる職業の地位向上と同時に、性別を問わずケアに参画することが当たり前になる世の中を目指して、活動を続けて参ります。

この記事を書いた人

プロフィール

寺田 由紀子
帝京大学助産学専攻科 講師

■経歴■
助産師・看護師・公認心理師のライセンスを持つ。看護学博士(東北大学)。
大学病院周産期センター、総合病院産婦人科勤務等の経験ののち、看護基礎教育の道へ。
看護学科の教員を経て、現在は助産学専攻科で、助産師育成に携わる。

  • 日本初!医療専門職による育児と介護のダブルケアラー支援団体DC NETWORK代表
  • 流死産で児を亡くしたご家族への医療専門職による支援の会 ANGEL TRAIN共同代表
  • 板橋区男女平等参画審議会委員
  • 公益社団法人東京都助産師会板橋地区分会 副会長
  • 特定非営利活動法人みんなのたすけあいセンターいたばし 理事

上記を務め、地域における助産師活動の幅を広げている。

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