前回のコラムでは、介護保険制度開始前の現場で、支援者と介護者の間に生まれた“心のつながり”の価値について振り返りました。今回は、その制度整備後の変化と、現場で見えてきた新たな課題について考えてみたいと思います。
2000年に創設された介護保険制度は、高齢者が住み慣れた地域で自分らしく暮らし続けられる体制づくりの第一歩でした。2005年には地域包括支援センターが制度化され、「地域包括ケア」という言葉が政策の中で位置づけられます。さらに2014年には医療介護総合確保推進法が施行され、全国各地で地域包括ケアシステムの構築が本格化しました。
こうした制度整備は、行政や支援者、事業者など第三者の介入を可能にし、それまで家庭内に潜んでいた高齢者虐待を顕在化させる契機となりました。2006年には高齢者虐待防止法が施行され、法に基づく支援体制が整えられていきます。制度の進展により、支援者の意識も高まり、司法(警察・弁護士)との連携や対応力の向上も進みました。
しかし、制度の発展に伴い、現場で対応する保健師や介護支援専門員、行政職員などの負担は増していきます。福祉分野に配置された保健師が限られた人数で広範な相談支援を担うなか、認知症か精神疾患か判断が難しい事例や、複数の障がいが絡む世帯など、分野横断的な支援が必要なケースも多く、縦割り行政による連携不足が課題として浮上しています。
現場では、「制度の狭間」に落ち込む事例への対応が求められますが、関係機関との連携がうまくいかず、支援者の熱意だけに頼らざるを得ない場面も少なくありません。支援者は営利では測れない感情労働を強いられることも多く、業務効率や報酬制度とのギャップに葛藤する声も聞かれます。
それでも、一人ひとり異なる高齢者の人生に向き合い、介護者や家族を含めた支援を丁寧に積み重ねることで、支援者自身が成長し、支え合える仲間と出会えるやりがいも確かに存在します。ほんの少しでも生活が温かく、幸せなものになるきっかけを支援によって生み出せたとき、それまでの苦労が報われると感じる瞬間があるのです。
今、2025年。団塊の世代が後期高齢者となり、地域包括ケアは新たな転換期を迎えています。制度は整っていても、誰がどのように「声にならない声」を拾い、支援へとつなげていくのか。そしてその支援が、制度の枠に収まらない「人と人とのつながり」によって支えられていることを、私たちは今一度問い直す必要があるのではないでしょうか。
制度が整えば支援は届く・・・そう思われがちですが、実際には制度の隙間に落ち込む声なき声が存在します。支援者の熱意や人と人がつながる人間関係の力が、制度を補完し、支援を可能にしている現実を、私たちは見つめ直す必要があります。制度やしくみと心がつながる支援・・・その両輪が噛み合ってこそ、地域包括ケアは本当の意味で機能するのではないでしょうか。
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