コミュニケーションに難しさのある人の社会的統合に向けて、私たちにできること

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市川 勝 氏

対象者の社会的統合に向けては、客観的な情報だけでなく、対象者自身がこれまでの生活と現状の生活のギャップに対してどのように感じ、何を考えているか、という主観的な視点もアセスメントする必要があります。

ここで留意すべきことは、対象者がコミュニケーションに難しさを抱えている場合です。
コミュニケーション障がいの種類としては、失語症(話す、書く、聴いて理解する、読んで理解することが難しい)や運動性構音障害(呼吸・発声・構音など発声発語器官の機能低下により発話が聞き取りにくい)、声帯の機能的または器質的問題による音声障害(声の質・高さ・大きさ、発声努力が変化する)などがあります。
アルツハイマー型認知症や前頭側頭型認知症の方に失語症状が、あるいはレビー小体型認知症の方に運動性構音障害がみられることもあります。このように、私たちが支援する方々の中には、コミュニケーション障がいにより、対話から十分に情報を得ることが難しい方が少なからずいらっしゃいます。

このような場合には、その対象者に合わせたコミュニケーション方法を用いながら、表情やジェスチャーなど非言語的な情報も含めて私たちが推測していくことが重要となります。
例えば、失語症の方であれば、聴覚的な理解と視覚的な理解のどちらが得意なのかを見極めること(視覚的な理解が比較的保たれているのであれば、漢字単語や絵などを媒介にやり取りをすることで対話が成立しやすくなります)、あるいは運動性構音障害の方であれば五十音表を活用しながら対話を進めることが有効です。
もちろん、このようなアセスメントのプロセスに言語聴覚士という職種を活用していただくことも、有意義であると思います。

結論として、どのような障がいがあっても、その方が「望む生活」「したいこと」を実現するために努力し、協働し、結果を出すこと―これこそが質の高い介護であり、リハビリテーションであると考えます。

その人が望む生活(社会的統合)を実現するための第一歩とは?

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市川 勝 氏

今回は、「目指すべき社会的統合のあり方」を支援者としていかに対象者と共有していくか、ということについて、介護職とリハビリテーション専門職に共通する視点から考えてみたいと思います。

2007(平成19)年の法改正において、介護福祉士の専門性はいわゆる3大介護に留まらず、対象者の「心身の状態に応じた介護」を行うことである、と規定されました。
このことは、対象者個々の生活や個別性を重視した介護を実践することが介護職に期待されていることを示しています。

では、対象者個々の生活や個別性を重視し、心身の状態に応じた介護を行うために不可欠なことは何でしょうか?
それは、対象者との対話を通して「どのような生活を望んでいるのか」「何をしたいのか」を模索することです。
このプロセスはまさに「社会的統合をどのように実現するか」につながるものであり、介護職とリハビリテーション専門職の接点でもあるといえるでしょう。

さて、この「どのような生活を望んでいるのか」「何をしたいのか」という問いは、ケアプランの第1表「本人(家族)の意向」にも反映されるものですが、対象者自身の価値観が強く影響する非常に個人的なものです。
では、それを支援者としてどのように共有していくべきでしょうか?

私の例を挙げれば、対象者のADLやIADL状況を把握する際に「どこまでご自身でできるか」「どのくらいの介助が必要か/どのような介助が必要か」の視点に留まらず、その人らしさが浮かび上がるような聞き方をしています。
食事であれば,好きな食べ物や飲み物、外食の頻度、行きつけのお店を。
更衣なら服のデザインや色の好み、好きなブランドを。
料理であれば、とっておきの得意料理や家族にまた食べさせたいと思う料理を。
買い物であれば、好きなお店や物を選ぶときのこだわりなどを伺いながら、アセスメントを進めます。

「その利用者が望む生活」とは、時間軸でいえば未来を見据えたものですが、一方で「これまでの生活」の延長線上に位置づけられるものでもあります。
その人が人生の中で積み重ねてきた「これまでの生活」を少しでも知ることが、「目指すべき社会的統合のあり方」を対象者と共有する第一歩であると考えます。

次回は、これらをさらに掘り下げ、特にコミュニケーションに難しさのある方の社会的統合をどのように進めていくかについて考えます。

リハビリテーション専門職の立場から考える「質」

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市川 勝 氏

皆さんの身近なところに、言語聴覚士はいますか?

言語聴覚士とは、事ばによるコミュニケーションや摂食嚥下に困難さのある人に専門的サービスを提供し、その人らしい生活を構築できるよう支援するリハビリテーション専門職の1つです。
現職者の約7割が医療機関に勤めている現状もあり、介護保険領域の皆様にはまだまだ馴染みの薄い職種かもしれません。

さて、今回はリハビリテーション専門職の立場から「質」を考えてみたいと思いますが、そもそもリハビリテーションとは何でしょうか?
ひと昔前までは、いわゆる「機能訓練」の同義語として捉えられる事も多くありましたが、文献を繙きますと「障がいのある人に、自らの人生を変革するための手段を提供する事を目的とする過程」(国際連合, 1982)であり、「障がいのある人の社会的統合を達成するためのあらゆる手段を含む」(WHO, 1981)ものがリハビリテーションであると定義づけられています。
そして、医師、介護職、リハビリテーション専門職、その他多くの職種のチームワークにより実践されるものである事は言うまでもありません。

ここに、左脳梗塞の後遺症により歩行障がいと失語症のある方がいらっしゃるとします。
上記の定義に従えば、その方のリハビリテーションとは「歩けるようになる」「コミュニケーションが取りやすくなる」事に留まらず、それらの能力を基盤に「生活の中でいつ・どこで・誰と・どのように・何をしたいか」という目標を明確にし、その目標すなわちその方にとっての社会的統合を目指す過程全てを指す事になるわけです。
そのように考えますと、リハビリテーションの質とは、この社会的統合の「達成度合い」とそれに対する「対象者自身の満足度や幸福度」などにより規定されるものといえるかもしれません。

次回は、目指すべき社会的統合のあり方を、支援者としていかに共有していくかについて考えてみたいと思います。