介護の世界でよく耳にする言葉にIADLがあります。IADLとは手段的日常生活動作といわれ、生活に欠かせない能力のひとつです。介護の仕事に携わるうえで知っておくべき知識のひとつともいえるでしょう。しかし、IADLがどんな動作を指し、どう評価して低下予防につなげていくのか、わからないという人も多いのではないでしょうか。
この記事では、IADLの定義と代表的な評価方法、介護施設でできる低下予防策を解説します。
IADLの定義とADLとの違い
IADLと混同しやすいのがADLです。この項目では、IADLの定義とADLとの違いや関係性について、詳しくみていきましょう。
IADLとは日常生活に欠かせない複雑な動作のこと
IADLとは、日常生活を送るうえで欠かせない複雑な動作のことを指します。具体的には、掃除や料理、洗濯、買い物などの家事動作全般や、薬や金銭の管理などが該当します。
料理を例にとってみましょう。まず食材を選び、食べやすい大きさに切ります。煮たり焼いたりなどの調理法を加え、味付けを行い、お皿に盛ります。料理には、切ったり焼いたりといった簡単な動作だけでなく、食材選びや調理法の選択といった一連の動作があります。この一連の動作をひっくるめてIADLといいます。
IADLは自立した社会生活を送るうえで欠かせない動作です。IADLを維持することができれば、生活の質の維持や向上につながるでしょう。
IADLとADLの違い
ADLとは日常生活動作のことで、移動・排泄・食事など、生きていくうえで欠かせない基本的動作を指します。私たちが生きていくうえで欠かせない動作といえるでしょう。このADLが失われると、自分で思うように生活することが難しくなり、介護が必要な状況となります。
ADLとIADLは、基本的動作と応用的動作と言い換えることもできます。ADLは着替えや洗面、入浴など、日常的な生活を送るうえで欠かせない基本的な動作です。人間らしい生活を送るために欠かせない動作ともいえるでしょう。
一方、IADLは、家事動作や買い物、電話対応など、ADLに比べると複雑な行動で判断力が求められる動作です。ADLと比べると応用的な動作といえるでしょう。
IADLとADLの関係性
ADLもIADLも、健全な日常生活を送るうえで欠かせない能力です。この2つには密接な関係性があり、IADLができなくなってくると、徐々にADLもできなくなってきてしまいます。言い換えれば、IADLの低下は、ADLの障害が起こる前触れともいってよいでしょう。
IADLの一部が難しくなってきたときには、将来ADLが低下することを念頭に置き、早期に対応していく必要があります。
IADLの評価方法「Lawton(ロートン)」について知ろう
では、IADLはどのように評価すればよいのでしょうか。IADLをはかる方法は複数あります。そのなかでも代表的な評価方法がLawton(ロートン)です。この項目では、Lawtonについてみていきましょう。
Lawton(ロートン)はIADL評価尺度のひとつ
Lawtonは1969年に作られたIADL評価尺度で、アメリカの心理学者Lawtonによって発案されました。日本で最も活用されている評価方法です。Lawtonを用いれば、どの動作をどのくらいのレベルで行えるかを可視化することができます。
Lawton評価尺度における採点方法
Lawtonでは、質問項目に対し「できる」「できない」の2択で回答する採点方法がとられています。
それぞれの項目における合計点が高いほど、自立に近い状態であると評価できます。正しく評価するためには、客観的な視点で回答することが大切です。
また、男女で項目数に違いがあり、男性の項目数の方が少なくなります。これは、IADLにおいて男女で差があるのが一般的と考えられて、男性の評価項目には洗濯や食事の支度などに関するものが省かれています。しかし、現在は男性でも積極的に家事をする人も増えており、独居生活を送る高齢男性も増えてきていることから、将来的には評価内容が見直される可能性があるでしょう。
Lawtonの8つの評価項目
Lawtonの評価項目には、次の8項目があります。Lawtonの尺度では上述のように「食事の支度」「家事」「洗濯」は女性のみの設問とされていますが、日本老年医学会は「現在では男性についても8項目で評価することが推奨される」としています。
- 電話を使用する能力:電話を使うことがどの程度できるかが問われます。
- 買い物:買い物がどの程度できるかが問われます。
- 食事の支度:食事の支度がどの程度できるかが問われます。
- 家事:家事がどの程度できるか、適切に行えるかが問われます。
- 洗濯:自分の洗濯がどの程度できるかが問われます。
- 移動手段:外出した際の移動手段について問われます。
- 服薬管理:薬を適切に服用できるかどうかが問われます。
- 金銭管理能力:金銭管理がどの程度行えるかについて問われます。
それぞれの項目についての詳細な内容、配点は以下のとおりです。
大項目 | 詳細項目 | 採点 |
---|---|---|
電話を使用する能力 | ・自分で番号を調べて電話をかけることができる。 | 1点 |
・2、3の知っている番号であれば、何人かに電話をかけることができる。 | 1点 | |
・電話には出られるが自分からはかけられない。 | 1点 | |
・全く電話を使うことができない。 | 0点 | |
買い物 | ・全ての買い物を行うことができる。 | 1点 |
・少額の買い物は自分で行える。 | 0点 | |
・誰かの付き添いがあれば買い物ができる。 | 0点 | |
・全く買い物ができない。 | 0点 | |
食事の支度 | ・自分で考えてきちんと食事の支度をすることができる。 | 1点 |
・材料が用意されていれば食事の支度をすることができる。 | 0点 | |
・支度された食事を温められる。または、食事の準備はできるものの、適切な食事内容を作ることはできない。 | 0点 | |
・食事の支度をしてもらう必要がある。 | 0点 | |
家事 | ・力仕事以外の家事はひとりで行える。 | 1点 |
・皿洗いやベッドの支度などの簡単な家事が行える。 | 1点 | |
・簡単な家事はできるが、きちんと清潔さを保つことはできない。 | 1点 | |
・全ての家事に手助けを必要とする。 | 1点 | |
・家事は全くできない。 | 0点 | |
洗濯 | ・自分の洗濯は全て自分で行える。 | 1点 |
・下着や靴下などの小物の洗濯を行うことはできる。 | 1点 | |
・洗濯は他の人にしてもらう必要がある。 | 0点 | |
交通手段 | ・ひとりで交通機関を利用し、あるいは自家用車で外出できる。 | 1点 |
・ひとりでタクシーは利用できるが、その他の公共交通機関を利用して移動することはできない。 | 1点 | |
・付き添いがいれば、公共交通機関で移動できる。 | 1点 | |
・付き添いがいれば、タクシーか自家用車で移動できる。 | 0点 | |
・全く外出はできない。 | 0点 | |
服薬の管理 | ・自分で正しいタイミングで正しい量の薬を飲むことができる。 | 1点 |
・前もって薬が仕分けされていれば、自分で飲むことができる。 | 0点 | |
・自分で薬を管理できない。 | 0点 | |
金銭管理能力 | ・家計を自分で管理できる(支払い計画・実施、銀行へ行くなど)。 | 1点 |
・日々の支払いはできるが、預金の出し入れや大きな買い物には手助けが必要。 | 1点 | |
・金銭の取り扱いはできない。 | 0点 |
IADLの低下を防ぐために介護施設ができること
IADLの低下を予防するためには、低下の原因を知って予防対策をすることが大切です。この項目では、IADLが低下する原因と、介護施設の職員ができる低下予防策を紹介します。
IADLが低下する原因はさまざま
IADLは、加齢や病気などが原因で身体機能が衰えることで低下していきます。一般的に、身体機能の低下は認知機能の低下とも大きく関係します。病気やケガなどで寝込む期間が長くなると、判断力や理解力が衰えていき、やがてIADLが低下してしまうでしょう。
また、精神面や環境もIADLに大きな影響を与えます。実際に、加齢によりできないことが増えて精神的に落ち込むことや、引っ越しなどで大きく環境が変わったことをきっかけに、IADLが低下することも少なくありません。
介護職員ができるIADL低下の予防対策
IADL低下の予防策の基本は、自分でできることはしてもらうこと、支援者は必要なことのみを手助けすることです。IADLが向上すれば、利用者自身のできることが増えていくため、職員の介助量も少なくなります。介護職員は、IADL低下予防の基本を頭に入れたうえで支援を行っていきましょう。介護職員ができるIADL低下予防策のポイントを3つ紹介します。
- 業務を効率化して必要以上に手を出しすぎないようにする
時間をかければ利用者が自分でできることも、介護施設では業務に追われた職員が手伝いの手を出してしまうことがあります。IADLを低下させないためには、業務を効率化し、利用者に接する時間を増やすようにしましょう。 - 自分でできる環境を整える
生活環境を整えることで、自分でできることを増やすと、IADLの低下予防が期待できます。具体的には、福祉用具を活用する、トイレや部屋がわかるような案内表示を作成するなどして、利用者自身がひとりで行える環境づくりをしていきましょう。 - レクリエーション内容の工夫
運動はIADL低下予防に効果があります。日常的に行うレクリエーションに体操や体を動かすゲームなどを取り入れましょう。マンネリ化すると参加率が下がることも考えられるため、飽きない工夫が大切です。同じような体操でも、使用する曲を変えたり、順番を変えてみたりして、変化をもたらすとよいでしょう。
また、2つの動作を一度に行う「ながら動作」が入ったゲームも、IADLの低下予防に効果があります。足踏みしながらのしりとりや、手拍子しながら野菜の名前を言い合うなどのゲームは、簡単で取り入れやすいのでおすすめです。
体を動かすのが苦手な場合や難しい場合には、タオルたたみや園芸などの日常生活に関わる動作をしてもらうのも、IADLの低下予防に効果的です。
IADLを正しく評価してIADLの維持向上に努めよう
利用者のIADLを正しく評価すると、IADLの維持向上に向けた支援がしやすくなります。介護施設では、IADLを正しく評価し、IADLの低下予防に努めることが大切です。そのためには、業務を効率化し、利用者に直接関わる時間を増やし、ゆとりをもってサポートすることが不可欠でしょう。業務効率化のひとつとして有効なのが、介護ソフトの導入です。介舟ファミリーなら、月額定額制でサポート体制が整っており、初めてでも導入しやすいでしょう。ぜひ、この機会に介舟ファミリーの導入を検討してみてはいかがでしょうか。