2027年度の障害福祉改定が控える中、制度の持続可能性を確保するために2026年度(令和8年度)に臨時的な報酬改定が行われます。しかし今回の報酬改定の報道をめぐり、「基本報酬が引き下げられるのか」「自分の事業所は影響を受けるのか」と不安を感じている事業所の責任者の方も多いのではないでしょうか。
厚生労働省は2026年2月18日に開催した有識者会議で、一部サービスの新規事業所を対象とした基本報酬の引き下げ案を具体的に提示しました。一方で、全従事者を対象とした賃上げ措置も同時に検討されており、今回の改定は単純な「マイナス改定」とは言い切れない内容となっています。
参考:障害福祉報酬の引き下げ、単位数公表 就労Bなど4サービス 新規事業所が対象 厚労省|介護ニュースJOINT
この記事では、改定の背景から重要ポイント、そして事業所として今すぐ取るべき対策まで、わかりやすく解説します。
【最新動向】2026年度障害福祉報酬改定では新規事業所の一部はマイナス改定に?
結論から言えば「新規事業所の一部にはマイナス、既存事業所は原則として現行維持、そして全事業所に賃上げ加算の拡充」という内容になっています。
「マイナス改定」という言葉だけが先行しがちですが、既存事業所の基本報酬はこれまでどおりとされており、すべての事業所が一律に報酬を削られるわけではありません。影響を受けるのは、令和8年6月1日以降に新規指定を受ける特定のサービス類型の事業所に限られます。
自事業所がどちらに該当するかをまず正確に把握することが、今後の経営判断において何より重要です。改定のスケジュールと対象範囲を冷静に整理したうえで、必要な対応策を講じていきましょう。
臨時の報酬改定になった背景とは
今回の臨時改定が実施されるに至った主な背景には、障害福祉サービス費の急激な増加があります。障害者総合支援法の施行時と比較すると、関連予算はすでに4倍以上に膨らんでおり、令和6年度の報酬改定後には総費用額がさらに前年比+12.1%という想定を超えた伸びを記録しました。

こうした費用増加の一因として、収支差率が高く事業所数が急増しているサービス類型の存在が挙げられています。また、一部の事業所では本来の制度趣旨に沿わない形で加算を算定するケースも散見されており、サービスの質の低下が懸念される状況となっていました。

引用:令和8年度障害福祉サービス等報酬改定における改定事項について|厚生労働省
厚労省はこうした現状を踏まえ、「サービスの質の確保」と「制度の持続可能性の確保」を両立させる観点から、令和8年度に臨時応急的な見直しを実施することを決定しました。今回の改定はその緊急対応としての位置づけです。
処遇改善加算の拡充により大幅な賃上げが実施される
上記のように報酬引き下げや国庫負担増などのネガティブな話題が注目されがちですが、今回の改定には事業所にとって重要なプラスの側面もあります。それが、福祉・介護職員等処遇改善加算の大幅な拡充です。介護報酬改定と同様に令和8年6月の施行に向けて、障害福祉従事者を幅広く対象とした賃上げが予定されています。
介護報酬改定について詳しくは下記コラムをご覧ください。

引用:令和8年度障害福祉サービス等報酬改定における改定事項について|厚生労働省
具体的には、月1.0万円(3.3%)の賃上げを基本とし、生産性向上の取り組みを行う事業所ではさらに月0.3万円(1.0%)が上乗せされます。定期昇給分も含めると、最大で月1.9万円(6.3%)の賃上げを目指す方針です。年間で約22万円もの給与UPにつながる取り組みのため、さらなる職員のモチベーション向上や人材不足解消が期待されています。

処遇改善加算の対象サービスと算定要件について
これまで処遇改善加算の対象サービスだった居宅介護や重度訪問介護サービスなどについては以下のように、加算Ⅰ(ロ)と加算Ⅱ(ロ)という上位区分が新設されました。これらの上位区分を取得することでさらに報酬を受け取ることができ、賃上げにつながっています。

引用:令和8年度障害福祉サービス等報酬改定における改定事項について|厚生労働省
算定要件としては以下の通りです。
| 加算区分 | 算定要件 |
| 加算Ⅰ(イ) | これまで通り |
| 加算Ⅰ(ロ) | 加算Ⅰ(イ)+令和8年度特例要件 |
| 加算Ⅱ(イ) | これまで通り |
| 加算Ⅱ(ロ) | 加算Ⅱ(イ)+令和8年度特例要件(従来要件のキャリアパス要件および職場環境等要件は令和8年度中に対応することの誓約で可能に) |
| 加算Ⅲ・Ⅳ | 基本的にはこれまで通りだが、令和8年度特例要件を満たす場合、キャリアパス要件および職場環境等要件は令和8年度中に対応することの誓約で可能に |
算定要件で頻出する「令和8年度特例要件」とは今回の臨時改定に限った要件を指します。以下のア~ウのうち、ア・イのどちらか一つとウを満たす必要があります。
- ア 職場環境の改善活動に取り組むこと
- イ 社会福祉連携推進法人に所属していること
- ウ 加算Ⅱロ相当の加算額の半分以上を賃金として配分していること
ア・ウについてすぐに満たせそうにない場合は、キャリアパス要件や職場環境等要件については年度中に対応することを「誓約」すれば算定が認められるという、配慮措置も設けられています。処遇改善加算を取得したい事業所は積極的に活用しましょう。

引用:令和8年度障害福祉サービス等報酬改定における改定事項について|厚生労働省
職場環境等の改善については以下を参照ください。

引用:令和8年度障害福祉サービス等報酬改定における改定事項について|厚生労働省
また、これまで処遇改善加算の対象外だった計画相談支援・障害児相談支援・地域相談支援にも新たに加算が設けられる予定です。
| 新規で対象となるサービス | 加算率 |
| 計画相談支援 | 5.1% |
| 地域相談支援(地域移行・地域定着支援) | 5.1% |
| 障害児相談支援 | 5.1% |
新規の対象サービスの算定要件は以下の2パターンです。
- 上記の令和8年度特例要件を満たす
- 処遇改善加算Ⅳの取得に準ずる要件 (キャリアパス要件Ⅰ・Ⅱ及び職場環境等要件)を満たす
自事業所の状況を見て、どちらが取得に向けて取り組みやすそうか判断して積極的に取得できるように今のうちから準備を進めておきましょう。
今回の報酬改定の重要ポイント
上記のように障害福祉従業員に対して賃上げを実施するなどポジティブなポイントがありますが、一方で注意するべきポイントもあります。必ずチェックしておきましょう。
①新規事業所への応急的な報酬単価の特例(▲1〜3%程度)
今回の改定でやはり注目すべき内容が、特定サービス類型の新規事業所に対する基本報酬の引き下げです。対象となるのは、以下のサービスです。
- 放課後等デイサービス
- 児童発達支援
- 就労継続支援B型
- グループホーム(介護サービス包括型・日中サービス支援型)
※こちらは令和8年6月1日以降に新規指定を受けた事業所に限り適用されます。

引用:令和8年度障害福祉サービス等報酬改定における改定事項について|厚生労働省
引き下げ幅は基本報酬単価ベースで▲1%強〜▲3%弱程度とされており、加算を含めた給付費全体で見ると▲1%弱〜▲1%半ば程度の影響となる見込みです。新規開所を予定している事業者は、この水準を前提に収支計画を見直しましょう。
また、すべての新規事業所が対象になるわけではありません。
- 医療的ケアや重症心身障害児への対応、強度行動障害の支援を行い報酬上の評価を受けている場合
- 離島・中山間地域にある事業所
- 自治体が客観的に必要と認めて設置する事業所
これらの事業所については、引き下げの対象外となる配慮措置が設けられています。
今回は新規のみの対象ですが、今後は既存の事業所に対しても応急的な報酬単価の変更がある可能性もあります。改めて自事業所の収支計画を見直し、今後既存の事業所もマイナス改定になるようなことがあっても生き残れるような体制を整えておきましょう。
②就労継続支援B型の基本報酬区分の基準見直し
上記に関連して就労継続支援B型については、令和6年度改定で平均工賃月額の算定方式が変更されたことにより、想定以上に高い報酬区分に分類される事業所が増加しました。この状況に対応するため、今回の改定では各報酬区分の基準となる平均工賃月額を一律3,000円に引き上げる見直しが行われます。
※令和8年6月1日以降に新規指定を受けた事業所に限り適用されるほか、既存の事業所においても令和6年度改定で区分が上がった場合には適用されます。

引用:令和8年度障害福祉サービス等報酬改定における改定事項について|厚生労働省
対象となるのは、令和6年度改定前後で区分が上がった事業所です。改定前後で区分が変わっていない事業所については、今回の見直しの適用対象外となります。また、見直しによって区分が下がる事業所については、基本報酬の減少額が3%程度に収まるよう「中間的な区分」が新設される緩和措置も講じられます。

引用:令和8年度障害福祉サービス等報酬改定における改定事項について|厚生労働省
なお、令和6年度改定ですでに単価が引き下げられた区分七と八の間の基準額については、今回は据え置きとなります。自事業所の報酬区分がどう変わるかを早めに試算し、必要であれば工賃向上に向けた取り組みを強化しましょう。
参考:障害報酬、就労B型は11区分に 減少額は3%程度〈厚労省〉|厚生労働省
③就労移行支援体制加算の適正化
就労移行支援体制加算については、一部事業所において同一利用者がA型事業所と一般企業の間で離転職を繰り返し、その都度加算を取得するという本来の趣旨に沿わない運用が目立つようになりました。実際に大阪市ではこの加算を不正利用した市内の34事業所が不適切な過大請求をしていた可能性があるとする調査結果を公表しています。これを受け、就労移行支援体制加算については令和8年4月より適正化が図られます。
対象となるサービスは以下のサービスです。
- 就労継続支援A型・B型
- 生活介護
- 自立訓練(機能訓練・生活訓練)
具体的な変更内容は以下の2点です。
- 1事業所で算定できる年間の就職者数に「定員数まで」という上限が設定される
- 過去3年間に他の事業所において算定実績がある利用者については、原則として算定不可であることが明確化

引用:令和8年度障害福祉サービス等報酬改定における改定事項について|厚生労働省
ただし、ハラスメントなどやむを得ない事情による退職の場合は、市町村長が適当と認めることで例外的に算定が認められます。
対象サービスを提供している事業所については加算の算定状況を改めて確認し、適切な運用ができているかを点検しておきましょう。
事業所が取るべき対策とは?
上記のように2026年度の障害福祉報酬改定ではさまざまな変更点がありました。そこで事業所が今すぐに取り組むべき対策を紹介します。
自事業所が「対象」か「対象外」か確認する
今回の改定では一部のサービスに対しマイナス改定があるため、自事業所が報酬引き下げの「対象」に該当するか否かをすぐに確認しておきましょう。
- 新規事業所か既存事業所か
- 対象の4サービス類型に含まれるか
- 配慮措置の適用要件を満たすか
新規開所を令和8年6月以降に予定している場合は、収支計画を基本報酬▲1〜3%程度の水準で再試算する必要があります。「わずか1〜2%だろう」と油断してはいけません。事業規模によっては年間の収支に大きく影響します。楽観的な数字のまま計画を進めることは避けましょう。
もし不安な場合は自事業所が所属する自治体の窓口や専門家などに相談しておきましょう。
新情報をすばやくキャッチする
今回取り上げた内容は、あくまでも「見直し案」の段階です。正式な通知・告示が出た段階で内容が変更される可能性もあるため、厚生労働省やこども家庭庁が公表する資料・通知を定期的に確認しておきましょう。
改定情報は官公庁のウェブサイトだけでなく、業界団体や専門メディアなどからもいち早く発信されます。また、介舟ファミリーでは、法改正の最新動向をコラムにて随時ご紹介しております。
複雑で変更の多い法改正について、介護・福祉事業所の皆様にわかりやすくお伝えしておりますので、ぜひブックマークやお気に入り登録をお願いいたします。
ICTツールを導入して生産性を高める
今回の改定においては障害福祉従業員に対して賃上げが実施されます。その要件として処遇改善加算を取得する必要がありますが、加算取得には職場環境等要件を満たさなければなりません。職場環境等要件の28項目の中には、「業務支援ソフトの導入」が明記されています。
業務支援ソフトのようなICTツールを導入することは、処遇改善加算の算定要件を満たすためだけでなく、現場の業務効率化に役立つため、事業所の生産性向上に大きくつながります。
例えば計画~請求業務といった手間のかかりやすい事務作業も、福祉ソフトを活用し効率化することで、スタッフの残業時間を削減し、浮いたコストを賃上げの原資に充てるという好循環をつくることができます。さらに働きやすい環境となるためスタッフのモチベーション向上から人材の定着率向上、ひいてはサービスの質を高められるなど幅広いメリットがあります。
こうしたICTツールを活用している事業所であれば、今後報酬単価の引き下げなど改定リスクに直面したとしても、高い生産性によって、「生き残れる」事業所として存続できる可能性が高まります。そのため、まずは事業所の課題を解決できるようなICTツールの導入を検討してみてはいかがでしょうか。
報酬改定を機に生産性の高い事業所に
異例の期中改定である2026年度(令和8年度)の障害福祉報酬改定は、「新規事業所への基本報酬引き下げ」と「全従事者への賃上げ加算の拡充」が同時に進む予定です。「マイナス改定」だけでなくポジティブな改定ポイントもあるため、「マイナス改定」という言葉だけに惑わされず、自事業所への影響を正確に把握することが何より大切です。
今回のマイナス改定の対象は新規の事業所のみのため既存事業所については基本報酬の直接的な引き下げは行われません。しかし、今回の臨時改定は2027年度(令和9年度)の本格的な報酬改定に向けた布石だと考えるべきでしょう。万が一、次回の報酬改定で既存の事業所も対象になった場合に備えて、今後の動向を継続的に注視しながら、事業所の収益体制の見直しを図りつつ、ICT化で生産性の高い事業所を目指していきましょう。
障害福祉サービスのICT化については以下のお役立ち資料で初めての方でもわかりやすく解説しています。ぜひご覧ください。