「気づき」のチカラ その2

これまで「縁」と「気づき」について書いてきました。
前回の最後に「・・・この気づきについては、次回で実体験をもとに詳しくお伝え出来たらと思います。」としましたので、恥ずかしながら実体験をお伝えします。

私のプロフィールをご覧になると、大学から福祉を学んできた人という印象と思います。しかし実際は大学3年の実習を経験するまで「超不本意入学」で在籍していた不真面目な学生でした。したがって大学は休みがち、いる時はサークルかコンパという勉強以外を楽しんでいました。

母校は卒業必修で社会福祉士実習があり、3年次秋に福祉事務所に配属となりました。実習前には実習計画書を作成しますが、実習担当の先生も呆れるようなような状況で何度も呼び出しを受けたことを記憶しています。

それは、福祉というものに違和感を持ち続けていた私が、実習先をイメージできなかったことに尽きます。
その違和感は、福祉=偽善的なイメージを持っていたからです。

実習では、ケースワーカーに同行し被保護者世帯への訪問が主でした。これまで福祉的な体験がなかった分、晴れの日は自転車をこぎながら伺うケースワーカーの皆さんとの会話はとても新鮮でした。

それまで「最低限度の生活以下の状況」や「困窮する」ということが理解できませんでしたが、ある日、一人暮らし高齢者のお宅に伺い面談に同席する機会がありました。古びたアパートでしたが、玄関からすぐ一間の部屋はきれいに整理されており、座るなりお茶を出して下さいました。「これから未来のある学生さんだからねー」と、ご自身のこれまでや現在の状況、今後の生活の希望などを語って下さいました。会話の中から「生きていくなかで、自分ではどうしようもできないことも起こり、それでも希望を捨てずに生きていこうとしている」姿勢に心を動かされました。また、何も知らないのに福祉を偽善的なイメージだけで評価していた偏狭な自身を恥じました。そこからです、人が生きていることの尊さや、人を支える福祉について素直な気持ちで学ぼうとする姿勢ができたのは。

今でもふと、あの時の光景を想い出すことがあります。生意気な実習生に気づきを与えて下さったあの方に感謝し、今の活動に活かしています。

人は人との関りの中で何かを気づき、深めていくことができると思います。特に、福祉や介護の世界にはその「気づき」が他の分野より多くあるのではないかと思います。利用者のふとしたしぐさや表情などから気づく支援、同僚や先輩の姿を見て気づく専門性・・・気づくとこれまでの景色に彩りと輪郭、そして目標などが出てくるはずです。

つたない経験をご紹介しましたが、気づきのきっかけになれましたら嬉しいです。

今回で終わりとなりますが、まだどこかでお会いできると思います。お読みくださりありがとうございました。

清水 正美

城西国際大学 教授
専門は福祉制度・政策、高齢者施設のあり方など。
大学では主に社会福祉士養成課程の指定科目(福祉政策、貧困に対する支援論、地域福祉の理論と方法、ソーシャルワーク実習指導)などを担当。

■著書■
『高齢者の生活困難と養護老人ホーム』(2019年、法律文化社、共著)など

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