支援の質 ~地域に開かれるとは~

障害福祉の就労継続支援B型事業所でのエピソード。

利用者の多くは公共交通機関で通所している。
Aさんは、毎朝事業所近くのバス停で降りると、バス停前のコンビニエンスストアで缶コーヒーを一つ買って事業所に来るのが日課だった。
猛暑が続くある夏の日、Aさんはいつものようにバス停を降りたが、あまりの暑さにコンビニエンスストアの前でフラフラと座り込んでしまったらしい。
通行人がAさんに声をかけ、コンビニエンスストアの店員が私たちの事業所に連絡をくれた。

実はこれ、単なる偶然ではなかった。
この通行人はいつも同じ時間帯に通りがかるため、Aさんをいつも見かけていた。
店員は、ほぼ毎日缶コーヒーを買うAさんとレジで簡単な会話をしていた。
近くの福祉事業所に通っていることも知っていたので、私たちに連絡をくれたのだった。
さらには、事業所スタッフは、普段から、時折このコンビニエンスストアを訪れては買い物ついでに何気ない挨拶を交わしていた。
そんな関係ができていた。

事業所では地元商店街の多くの店と日ごろから顔が見える関係を作っている。
事業所スタッフが居酒屋の常連客?という関係も含めて、こういうことが後で大きな力になる。

福祉事業所は地域に開かれることが大切だと言われ続けている。多くの法人理念にも、いろいろな書籍にも書いてある。
しかし、具体的なイメージが描けないことも多い。
例えば、障害のことはよくわからないけれど、いつも見かけるAさんのことなら知っている。
そんな日ごろの何気ない時間を積み重ねていく。そういう人を増やしていくこと。
それが社会資源の質、社会福祉の質を上げていくのである。

齋藤 正

  • 就労移行支援グランドマーリン所長
  • 武蔵野大学しあわせ研究所客員研究員
  • 武蔵野大学通信教育部非常勤講師
  • 東京都立大学人文社会学部非常勤講師

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