著名人コラム

「大きなお世話だ!」と一喝された冊子

「大きなお世話だ!」と一喝された冊子

私が就職した広報誌を制作する出版社の社長は、元編集者だったこともあり、すべての新刊の最終チェックを自ら行っていました。
新人だったころ、担当した生活習慣病(当時は成人病と呼ばれていました)予防の冊子が、最終チェックで社長から大目玉を食らい、正月休み返上で全部つくり直したという強烈な記憶もあります。 正月休み返上などというと今の時代問題視もされそうですが、そのとき私といっしょに正月休みを返上してつくり直してくれたのが、ほかならぬ社長であったことも申し添えておきます。

その後は、少しずつ編集スキルを伸ばし経験を重ねることで、社長から(それ相応の直しはありましたが)根本的なダメ出しをされることはなくなりました。
……が、20年以上を経て、再び猛烈なダメ出しをされました。

それは高齢者向けの冊子で、前半は介護予防や認知症予防など健康長寿につながる記事、後半は生きがいの創出(ボランティア、趣味、町内会活動など)、成年後見制度の紹介、終活のすすめ……などシニアライフの過ごしかたを提案する記事で構成されたものでした。
当時、年齢的には高齢者だった社長の逆鱗に触れたのは、後半のシニアライフの提案記事でした。 「大きなお世話だ!」と一喝され、つくり直しどことろか、刊行中止を言い渡されました。

久々に大目玉を食らった私は縮み上がりましたが、同時に編集部や営業部の上司たちも慌てました。
その冊子が新人のときの失敗のような「商品にならない冊子」では、「一見」なかったからです。
国の指針を過不足なく紹介する内容構成で、広報予算も計上されたものだったので、刊行中止はビジネス的にも忍びなく、結果的に上司たちの口添えで後半の記事を大幅に減らす修正で刊行されました。

今振り返れば、社長が「大きなお世話」と激怒したのは、同じ高齢者としての「当事者意識」だったと思います。そして、私の「当事者意識の欠如」が、一見問題なさそうで、実は当事者の感情をどこか逆撫でするような鈍感で不遜な冊子をつくったのだと反省しています。
たとえ高齢でも、現役の代表取締役として会社を牽引している社長に、上記のようなシニアライフの提案をする人は少ないでしょう。私も社長のような高齢者は「例外」だと考えていました。
しかし、社長は自分をいわば「特権的な例外」とは考えなかったのです。
こうした態度こそ、編集者に必要な当事者意識だと思います。 国の指針に従って広報誌をつくる会社の社長が、その指針に大きなお世話だと本気で憤った当事者意識に、私は衷心から敬意を表します。

ただ、国が推進するシニアライフの提案がすべて大きなお世話かとなると、そうではありません。
私の当事者意識の欠如した「編集」が、そうした印象を社長(対象読者)に与えてしまったのです。
文書であれ映像であれ「編集次第」で、ある事柄の内容はおろか、統計データの数字ですら、受け取る側の印象を(場合によっては真逆にも)変えられることはよく知られています。 つまり「私の編集次第」で、同じ内容のシニアライフの提案記事でも、社長に憤慨されるのではなく、関心を寄せてもらえる冊子もつくれたはずだと、折に触れては後悔しています。

この記事を書いた人

プロフィール

栗本 英志

編集プロダクション 代表

■経歴■
全国の自治体、企業の健保組合等の広報誌・機関紙・単行本等を制作直販する専門出版社にて、健康づくり・生活習慣病予防・介護予防・防災減災・メンタルヘルス・健康保険・消費者問題・社会人マナーなどの周知啓発冊子を編集制作。
関連会社で一般書籍の編集制作を経て、編集プロダクションとして独立。

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