【分かりやすい】サ高住の囲い込みは何が問題になる?介護現場にはどのような影響が?詳しく解説

【分かりやすい】サ高住の囲い込みは何が問題になる?介護現場にはどのような影響が?詳しく解説

サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)における「囲い込み問題」が大きな社会問題となっています。一部のサ高住が入居者に対して併設している事業所の介護サービスを強制的に利用させる行為が横行し、制度の本来の趣旨を歪めているのです。
この問題は単なるサービスの質の問題だけでなく、結果的に訪問介護をはじめとするほかの介護サービスの介護報酬引き下げにも繋がり、真摯に事業運営を行っている多くの介護事業所の経営を圧迫するリスクがあります。そこで本記事はサ高住においてなぜ囲い込み問題が起こるのか、そして介護現場にどのような影響を与えているのかを詳しく解説します。

サ高住の囲い込み問題とは

サ高住の囲い込み問題とは、サービス付き高齢者向け住宅が入居者に対して、併設または関連する特定の介護事業所のサービスを利用するよう強制したり、必要以上の過剰なサービスを提供したりする行為を指します。本来、サ高住は介護サービスを直接提供できないため、入居者は自由に外部の介護サービスを選択できるはずですが、実際には入居者の意思や必要性を無視して、経営母体の利益を優先したサービス提供が行われています。これにより、本人の自立支援が阻害され、介護保険制度の根幹であるケアマネジメントの中立性が損なわれる事態が発生しているのです。

サ高住の囲い込み問題が発生する原因

ではなぜ、サ高住の囲い込み問題が発生してしまうのでしょうか。原因としては以下の3つが考えられます。

サ高住が得られる利益が少ないため

サ高住は、直接介護サービスを提供できる有料老人ホームとは異なり、原則として介護サービスを直接提供しない「区分支給限度額方式」を採用しています。この区分支給限度額方式は有料老人ホームが採用している「特定施設入居者生活介護」よりも介護報酬は高めに設定されています。しかしサ高住が提供できるサービスとしては住居提供と安否確認・生活相談のみのため、介護報酬を得ることができず、十分な利益を確保することが難しい構造にあります。
このため、経営の安定を図るために、サ高住では同一法人またはそれに近しい事業団体が介護事業所をサ高住に併設し、入居者に対して積極的にそれらのサービスを利用させることで高い報酬を得ることができ、収益を確保するビジネスモデルが形成されています。このように囲い込みをすることは、サ高住側にとっては経営上の生き残り策となっているのです。

サ高住が地方の受け皿となっているため

一般的にサ高住は要介護度の低い利用者向けのものですが、地方ではその選択が限定的です。例えば介護ニーズに対して一定のサービスを提供できる都市部では、有料老人ホームやサ高住などを利用者自身の要介護度に合わせて選択できます。
一方で、地方では人手不足が深刻化しており、すべての利用者に等しく十分な介護サービスを提供することは不可能です。そのため要介護度が高い利用者から特別養護老人ホームなどに入れられ、特養に入りたいが入れない人などはサ高住へと移るしか選択肢がありません。そのため、自身が必要としない介護サービスでも受けざるを得ないケースもあります。このようにサ高住に移ってしまう場合もあるのです。

行政の実地指導が不十分なため

サ高住での囲い込み問題が横行する背景には、行政による実地指導が十分に機能していないことがあります。
実地指導とは行政が介護サービスを提供する事業所に対して、しっかりとそのサービスの質が一定の水準に保たれているかを確認・指導する取り組みです。もし不適格だと認定された場合は、最悪の場合認定を取り消すこともあります。実際に指定都市・中核市の実地指導では、指定取消や効力停止処分を受けた事業所の約3割がサ高住関連と報告されており、問題の深刻さが浮き彫りになっています。
しかし、以下の図のように近年サ高住の戸数は急速に増加しており、自治体の人員や予算が追いついていません。すべての事業所を適切に監督することは事実上困難な状況です。
政府は実地指導を行う自治体への補助金上限額を300万円から600万円に増額するなどの対策を講じていますが、現場の監督体制の強化は依然として課題となっています。

介護現場における囲い込み問題の影響

サ高住による囲い込み問題は、利用者にとって自由な介護サービスの選択の機会を得られない、過剰・過少なサービスを強制されられるだけではありません。介護サービスを提供する事業者側にとっても大きな影響を及ぼします。それが「訪問介護事業所の閉鎖」です。

訪問介護事業所の閉鎖

一般的に、囲い込みによってサ高住だけでなく関連する介護事業所も利益を得られるため、「訪問介護事業所が経営難に陥ることはない」と思われがちです。
確かにサ高住に併設された事業所では、介護スタッフと利用者の距離が近いため、通常の訪問介護で大きな負担となる移動コストを大幅に削減できます。さらに、過剰なサービス提供によって売上を伸ばせるため、収益性は高くなります。
一方、地方や過疎地域などでは利用者宅が点在しており移動コストがかさむため、収支差率は低くなりやすい傾向にあります。
しかし2024年度の介護報酬改定では、地方とサ高住との収支差率の格差があるにもかかわらず、「訪問介護サービスは収支差率が高い」とひとくくりにしてマイナス改定が行われました。この改定を受け、特に地方の収支差率が低い事業所は次々と閉鎖に追い込まれています。東京商工リサーチの調査によれば、2024年には過去最多となる174件(前年比40.9%増)の事業所が閉鎖を余儀なくされました。
それにもかかわらず、サ高住の囲い込みはなくなりません。サ高住が併設の介護サービスを利用する場合、「同一建物減算」が適用されます。これは、事業所と同じ建物に住む利用者へのサービス提供に対する減算制度です。
サ高住に併設された介護事業所を利用すると、この同一建物減算の対象となり、本来得られるはずだった介護報酬の10〜15%が減額されることもあります。しかし厚生労働省が中山間・離島や都市部も含めた訪問介護事業所の収支状況を調査したところ、同一建物減算を受けている事業所の方が、受けていない事業所より5%以上も収益率が高いことがわかりました。これはサ高住と介護事業所が同一建物にあることで訪問回数が増え、結果的に給付費も増加したためと考えられています。結果、サ高住の囲い込みはなくならないのです。
このように、サ高住の囲い込み問題はサ高住の囲い込み解消ではなく地方の訪問介護サービスに悪影響を及ぼしています。最終的に訪問介護業界全体の衰退につながりかねません。そのため、ようやくサ高住のあり方を見直す動きが広がっているのです。

今後のサ高住囲い込み問題の展望

先述したようにサ高住の囲い込み問題は、利用者側やサービス提供側にとって多くのデメリットが発生します。そこで政府は「訪問介護や同一建物減算などにとどまらず、さらに踏み込んだ対応が必要」と主張しています。具体的には外付けの介護サービスを提供する場合は、その上限額をより厳格にすることや区分支給基準限度額ではなく、「特定施設入居者生活介護」の報酬を上限とすることなど抜本的な報酬体系の見直しに取り組んでいます
また、サ高住や有料老人ホームの運営のあり方についても包括的な見直しが進んでおり、主な検討事項として以下のような項目が挙げられています。
 
  • 入居紹介業者の運営透明性の確保
  • 事業者による情報開示の強化と運営の透明性向上
  • 外部サービス利用型特定施設の活用促進
など
こうした囲い込み対策について、関係省庁や業界団体を交えた活発な議論が続いています。さらに、行政による実地指導の質と頻度を高めるため、行政への補助金支給を拡充し、監査体制の強化も推進されています。 今後はこうした見直しにより、改善方向へと向かう可能性が高いですが、現時点ではどのような改正内容になるかは不透明です。

サ高住の囲い込み問題を機に事業所の収益改善を図ろう

サ高住における囲い込み問題は、過剰・過少なサービスを強制的に提供させるという点だけでなく、介護報酬の引き下げという形で介護現場にも大きく波及しています。これにより多くの事業所が経営難に直面し、過去最多の倒産件数を記録しました。しかし、サ高住の囲い込み問題はいまだに解決していません。
そこでこの問題をきっかけに各事業所では生き残りを図るべく、利用者本位のサービス提供体制の構築と経営効率化に取り組むべきです。適切なケアマネジメントと質の高いサービス提供を徹底することで、制度の本来の趣旨に沿った運営を行い、持続可能な事業展開と収益改善を実現しましょう。

介舟ファミリーは、介護と障害者福祉の両制度に対応し、事業所が必要な機能を標準で提供しています。包括的なサポート体制があり、初めての利用でも安心して導入できます。どうぞお気軽にお問い合わせください。

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